気になる本 02/10

建築家・松村正恒ともうひとつのモダニズム 鹿島出版会 花田佳明著

 愛媛県出身の建築家といえば丹下健三が有名だが、この村松正恒も60年代に丹下と並び日本を代表する建築家として名をあげられたほどの人物だが、中央には背を背け、八幡浜市を拠点に愛媛県で活動をした。代表作の「日土小学校」はDOCOMOMO Japanが選ぶ「日本の近代建築20選」にも選出されている。なぜ村松は丹下のように中央で活躍する事を選択せず地方を選んだのか?文化における中央と周縁というテーマからも興味深い一冊。

東京での下積みを経て、故郷・愛媛県で設計を続けることを選んだ建築家・松村正恒八幡浜市役所在籍中の1947〜60年には日土小学校をはじめとする多くの名作を残した。地方に生きたモダニスト、初の本格評伝。

■序章
■第1章 松村正恒の原風景
■第2章 八幡浜市役所における建築設計活動
■第3章 八幡浜市役所時代の外部世界との関係
■結章
■補遺 独立後の松村正恒の設計活動について


ふしぎ盆栽ホンノンボ 講談社文庫 宮田珠己

 ホンノンボとはベトナム版の盆栽のようなものらしい。盆栽に代表されるミニチュアへの偏愛は日本人の精神的な特徴とされるが、南国ベトナムにもそういう文化があることが非常に面白い。ただ、どうもマヌケな感じのようだが、どういうマヌケさなんだろう… 

何だ? これは!? 岩の上にミニチュアが!
ベトナムのヘンな「盆栽」の謎を探る紀行エッセイ
 
「仮にも一国の伝統文化が、こんなおもちゃのようなマヌケな感じでいいのか!」。ベトナムに旅した著者の琴線を揺さぶった“ヘンな岩”ホンノンボ。それは山か島のようで、家や人物のミニチュアがのっており、水を張った鉢のなかにある。もっともっと多くのホンノンボに出会いたい――幻の傑作紀行エッセイ待望の文庫化。
 
私も宮田さんの真似をして、ホンノンボの中に入ってゆきます。まずは自分が、ミクロの決死圏のように小さく縮んだことを想像します。そうしてホンノンボの中にぴょんと着地してみます。すると水盤上の岩石は、あたかも中国の高僧が描いた水墨画の幽玄の世界に感じられます。なるほどなあ。――浅生ハルミン<解説より>
 
※本書は2007年2月、ポプラ社より刊行された単行本に加筆訂正したものです。

三人称の哲学 講談社選書メチエ ロベルト・エスポジト著

 ロベルト・エスポジトはイタリアの思想家。主著は『コムニタス(共同体)』『イムニタス(免疫)』『ビオス(生政治)』。9.11を「免疫」をキーワードに解釈したりしているという。
 本書は上述3連作に続く著作。いきなり読むのは難しそうなので、3連作のエッセンスを解説した同じ講談社選書メチエの「近代政治の脱構築 共同体・免疫・生政治」を読んでからの方がよさそうだ。

非――政治へ
非――人称へ
現代思想の最前線にたつ著者が挑む「人格」という装置の脱構築
 
一見したところ正反対のようにみえる政治や思想、たとえば徹底して人格を破壊してきたナチズムの生政治=死政治と、逆に人格を金科玉条のように祭り上げる自由主義の人格尊重とが、実は同じような前提──生きるに値する生、生の生産的管理など──を共有している点にも、エスポジトはわたしたちの注意を喚起している。
生物学や人類学、言語学社会学など、さまざまな観点から人間を解明しようとしてきた近代の諸科学を根底で突き動かしてきたもの、それがこの「ペルソナ」の装置であり、ナチズムとリベラリズムは、同じ装置によってもたらされた、たがいの反転像にほかならないのである。――<「訳者あとがき」 より>
 
目次
序論
第1章 二重の生(人間科学機械)
第2章 ペルソナ、ヒト、モノ
第3章 三人称