気になる本 02/16

牛 築路 岩波現代文庫 莫言著 菱沼彬晁訳

中国のガルシア・マルケスとも言われる「マジックリアリズム」の作家・莫言の本邦初訳がいきなり岩波文庫オリジナル版で出版される。莫言原作の映画「紅いコーリャン」は日本でもヒットしたし、筆者も劇場で見て赤が印象的な映像表現に圧倒された記憶がある。原作は読んだ事がなかったが、某批評家が莫言を強く推していたので一度読んでみたいと思っていた。この本あたりはとっかかりとしてよさそうだ。といっても税込1,281円はちょっとした単行本並の値段なので、文庫だからといってお買い得感はあまりないが(笑)

中国の寒村での庶民の生と死を凝視し,暴力という秘儀体験と生命のはかなさを饒舌な文体で濃密に描く.荒涼たる大地ではいつくばうように生きる人々が見た幻,そして望み.輪廻転生.渇望と諦念.「マジックリアリズム」の手法で知られ,国際的にも注目される現代中国文学の旗手が文革期農村を丹念に描いた秀作二篇.本邦初訳.岩波現代文庫オリジナル版.(解説=飯塚容)


青の物理学―― 空色の謎をめぐる思索 ―― 岩波書店 ピーター・ペジック著 青木薫

空が青いのは太陽光のうち青色の波長のもののみが反射され人の目に届くから、と思っていたが、深く突き詰めていくと事はそう単純でもなさそうだ。出版社のHPの解説を読むと、アリストテレスから始まってアインシュタインまでこの謎への挑戦は続き、今なお決着を見てないとの事。レオナルド・ダ・ヴィンチなどが実際に行った空を瓶に閉じ込める実験、というのもミステリアスで興味が湧く。

空はなぜ青い?――子どもも抱くこの問いは,アリストテレスデカルトレオナルド・ダ・ヴィンチニュートンゲーテなど知の巨人たちを悩ませ,芸術家を魅了し,チンダルやレイリーなど科学者を謎の解明にかりたてた.文化史・美術史を背景とするスリリングで壮大な科学ドラマは,わたしたちを宇宙や脳の研究へと誘う.


サラリーマン誕生物語 講談社 原克著

当たり前に思っている事が、実は歴史的にそれほど古いことでもないし当たり前な事でもない、という事を教えてくれる本が好きだ。本書は「サラリーマン」の誕生についての本。さすがに「サラリーマン」がそれほど古いものでないことは知っているが、解説で触れられているように通勤とか車内マナーも「サラリーマン」の誕生と共に発生したと言われると、なるほどと思いつつちょっと不思議な気になる。

我々はどこから来てどこへ行くのか
二〇世紀初期、人類史上に初めて「サラリーマン」が生まれた。
新発明の執務機器や最先端の通信機械によって高速化・効率化される職場(オフィス)。昼食までもが時間管理される都市型労働者の原型を活写。
 
都市の発展とは近代化の別名である。住まう場所と働く場所が離れている。そのため毎朝、通勤電車に乗る。こんな単純なできごとも、人類の歴史上かつて考えられなかったことだ。混雑した車内でのマナー、発車時間に遅れまいとする時間感覚、おそらくは一生親しく交わることのない不特定の人波との微妙な距離感覚。こうした、今日ではごく当たり前になっているできごとたちも、二〇世紀になってはじめて、明確なライフスタイルとして誕生してきたものである。――<本書より>