気になる本 02/18

天職の運命 スターリンの夜を生きた芸術家たち みすず書房 武藤洋二著

解説を読むからに重い一冊。取り上げられた芸術家も多岐に渡り、政治と芸術の関係性を深く考えさせられる一冊になってそうだ。

史上最大の国家権力であったソヴェトのスターリン独裁下、芸術家たちはどう生きたのか。
農業集団化によるウクライナの飢餓、赤軍粛清、無実の者の逮捕と処刑、強制収容所少数民族の迫害など、ソヴェトの負の歴史、とりわけこの時代の人間のありようは、ナチスの犯罪とくらべて明らかでないことが多い。本書は徹底した実録により、個人の生き方と国家の動きが奏でる《時代の音楽》を再現する。
多くは体制賛美者、小心な加害者、無数の保身者として生きのびようとした。だが人類の創作史は、人生の最悪の日々につくられた傑作をたくさん知っている。
岡田嘉子と憧れの国に密入国したものの、メイエルホリドの偽りの罪状づくりに利用されて銃殺された演出家杉本良吉。スターリンの求めで一枚だけのレコード用に演奏を録音後、あなたを罪人とみなすという手紙を送ったピアニスト、ユージナ。国家の保護を拒んで作品を一枚も手放さず、死後の美術館建設を夢見て餓死した画家フィローノフ。ユダヤ文化復興に賭け、暗殺された演劇人ミホエルス。ネフスキイ、ショスタコーヴィチ、メイエルホリド、トロツキイ、パステルナーク。闇のなかで自分の生命力に創作の火を灯した人々がいたのだ。
碩学の長年の精華である交響曲のような一書。
 
序章 大阪から 「机の上を片づけないで下さい」(ネフスキイ)
第1章 実験国家と実験家 知の遊牧者メイエルホリド
第2章 対岸のユートピア 杉本良吉と「にわとりの足をした水晶宮
第3章 「余所者の劇団」 権力の剣、仲間の匕首(あいくち)
第4章 ユートピアへの「呼び子」 火から?への脱出
第5章 三の死 「相変わらず独創家ぶっているのかね」(モーロトフ)
第6章 特別列車 うわばみ権力と「われわれは皆うさぎだ」
第7章 命という重荷 「スターリンのロシヤ語は小学生なみである」(トロツキイ)
第8章 加害者にも被害者にもならない方法 オレーシャと「おせっかいな熊たち」
第9章 目盛り 極限の人びとのあたり前さについて
第10章 ある餓死者の場合 フィローノフの天職を飯のたねにしない方法 
第11章 恐怖の入れ替わり 「虚構の非人間的な支配」と浄火の嵐
第12章 勝利の後で 「権力は私に手を出しません」(ショスタコーヴィチ
第13章 断片作家 「一行も書かない日はなし」(オレーシャ)
第14章 沈黙の十字架 「自分の運命の自由な囚人」(アンドレーエフ)
第15章 「悲劇のにない手」 パステルナークと銀貨三十枚と三十コペイカ
終章  それぞれの死 無への入場式


江戸時代の名産品と商標 吉川弘文館 江戸遺跡研究会編

「そうは桑名の焼きハマグリ」のように江戸時代には地名を冠した名物が多く生まれた。現代でいうところのご当地グルメだろうか。今も昔も村おこしというのを人は一生懸命考えてきたようだ。現代の村おこしのヒントもあるかも。

江戸時代、全国各地で様々な名産品がつくられた。沖縄の壺屋(つぼや)焼(やき)、九州小倉の三官(さんかん)飴(あめ)、良薬烏犀圓(うさいえん)、京の小町(こまち)紅(べに)、銘酒江戸一…。これらの品や商標はどう生まれ、普及したのか。売る側の戦略と消費する側の満足度、ブランド志向で生まれたコピー商品などを考古・文献資料をもとに検証。モノと名の広がりと評価から「名産品」誕生の実態を解き明かす。
 
はじめに―江戸時代の名産品と商標―…小川 望/小倉名物三官飴壺の生産と流通…佐藤浩司琉球泡盛陶器(壺屋焼)の交易…小田静夫/京都伏見・深草産の土師質製品について…能芝 勉/京焼の印銘…岡 佳子/「亀」在印資料の流通と展開…中野高久/京小町紅―はんなりと…角谷江津子/「烏犀圓」の銘をもつ合子蓋と商標・薬名…小川 望/小坏に描かれた商標―江戸のノベルティーグッズ―…成瀬晃司/「入谷土器」について―東京都台東区入谷遺跡出土資料の検討―…小俣 悟/汐入の「面胡粉」…野尻かおる・小川 望/都市江戸における消費行為と情報―出土資料と対比して―…堀内秀樹/文献から見た名産品と商標…笹岡洋一/あとがき…古泉 弘


ラテンアメリカ十大小説 岩波新書 木村榮一

インディオがのこした伝承と,ヨーロッパの近代をともに腐葉土としながら,夢や魔術と苛酷な現実とがふしぎに入り乱れる,濃密な物語を紡いできたラテンアメリカボルヘス『エル・アレフ』,ガルシア=マルケス百年の孤独』,バルガス=リョサ『緑の家』,そして? 翻訳の第一人者として知られる著者による,待望の作品案内.

王朝文学の楽しみ 岩波新書 尾崎左永子

源氏物語』『枕草子』『伊勢物語』など「王朝古典」には誰もが高校の「古文」で触れるが,その本当の面白さは教科書に採用されぬ部分にある,と著者は断言する.誰もがかかえる愚かしさ,燃える嫉妬心,権力者との危うい関わり…….今も変わらぬ人間の本性を映す世界へ,現代的な感覚,小気味よい筆運びで案内する.

岩波新書からブックガイドを2冊。「ラテンアメリカ十大小説」の方は十大小説というだけあって、ラテンアメリカ文学の王道的ラインナップ。どれも随分前に書かれた本なので、続編で最近の作品を集めたガイドを出して欲しい。「王朝文学の楽しみ」は日本の平安期の古典へのガイド。学校で勉強するのは嫌だったけど今なら面白く読めるかもしれない。